Spending all Spending Spending all my time

 私は教室の壁にもたれながら彼女を見ている。彼女は窓の外を見ている。何を見ているのかを私は知っている。そこからは美術室が見える。イーゼルに立て掛けたキャンパスに向かう彼を見つめている。彼は彼女に見られていることには気づかない。彼女もまた私に見られていることに気づかない。舞い込む風がふんわりとカーテンを揺らした。

 その瞬間。私は目が覚めた。まだ外は暗い。枕元の時計に目をやると四時過ぎだった。また眠れなかったことにうんざりしながらそっとベッドを出る。

 頭痛を治めるためシャワーを浴びた後、コーヒーの豆を挽きながら夢の続きを思い出す。彼女は彼が好きだった。彼も彼女が好きだった。付き合うことになったと報告を受けた私は彼女に「おめでとう」と言った。彼女ははにかみながら「ありがとう」と答えた。

 でもね、実は私も彼を好きだったのと呟きながらドリッパーにフィルターをセットする。そう、これは夢ではない。実際にあった話だ。その言葉を告げられずに時は過ぎ、結局彼女は彼とは別の人と結婚をし二児の母になった。彼と私は今でも時々会う。

 挽いた豆を均しゆっくりと湯を注ぐ。そしてここからが本当に馬鹿げた話の続きだ。私は未だに彼の事が好きなのだ。あれから十年以上経った今でも。

 サーバーに溜まってゆく琥珀色の液体を眺めながら私は来月に迫った彼の結婚式に何を着ていこうか考える。お気に入りの緑のドレスにサテンのボレロでも羽織ろうか、それともワンピースを新調してショールと組み合わせようか。この前買った深紫色のパンプスに似合うような。

 ゆっくりと苦いコーヒーを飲みながらぼんやりしていると新聞配達のバイクの音が聞こえた。私は冷蔵庫から卵とベーコンとトマトと牛乳とバターを取り出してから寝室に戻る。

 「おはよう、今朝はトマトのオムレツだよ」

 うーん、と布団の中からまだ寝ぼけている夫のくぐもった声がした。