幸せなら 幸せなり 変哲もなしじゃ忘れちまうんだぜ

「昔は楽しかったねえ」
「若いってだけでもう楽しいもんね」
「そうそう。徹夜なんて全然余裕」
「体力あったよねー。全身フル稼働しても超平気」
「オールのイベントずっと立ちっぱでも疲れなかったし」
「バイト掛け持ちしてたし」
「あんた三つくらい同時にやってたよね」
「やってたー」
「なのにいつも『お金なーい』ってぼやいてたよね」
「教習所に通ってたら消えた」
「金は消えない」
「たしかに」


「あ、今度のライブ行く?」
「何曜日?」
「木曜日」
「平日は無理だわ」
「じゃあ一人で楽しんでくるよ」
「よろしく伝えといて」
「誰にだ」


「見てこれ」
「ウサギ?」
「彼氏」
「いや、ウサギだろ」
「彼氏」
「わーイケメンですねー」
「すげえ無表情だな」
「答えの返しようがないよ」
「惚気ばなし聞きたくない?」
「うん。聞かない」


「あ、もうこんな時間だ。そろそろ保育園にお迎えに行かなくちゃ」
「本当だ。日が暮れそう」
「今日だっけ?旦那さんが出張から帰ってくるの」
「そうなんだよねー。夕飯はハンバーグが食べたいだなんてでかい子どもだよ。まったく」
「うちにだってでかい子どもいるもん。それと小さい子どもとウサギもいるもんね」
「何を張り合ってんの」




「ねえ」
「うん?」
「お互い老けたね」
「大人になっただけだよ」